えびす様を祀る三千社の総本宮「美保神社」
島根県松江市にある美保神社は、美しい海と小さな港の近くに鎮座しています。えびす様の総本宮だけあり、立派な社殿を構えています。耳を澄ますと波の音やカモメの鳴き声に癒され、明るい気が流れて心が穏やかになります。今回は、海の神様をお祀りし、出雲大社とも縁が深い美保神社をご案内します。
美保神社の歴史
はじまり
美保神社は、創建自体不明とされていますが、4世紀ごろの勾玉や、雨乞いなどの儀式で捧げられた破片などが、境内から発掘されていることから、大変古い起源だといわれています。出土品から考えると、古墳時代の以前よりこの場所で祭祀が行われていたとされています。
ご祭神・ご利益
ご祭神は、「事代主神」(ことしろぬしのかみ)と「三穂津姫命」(みほつひめのみこと)がお祀りされています。美保の地名は、三穂津姫命と由縁があるため名付けられた、ともいわれています。なお、事代主神とえびす様は同じ神様です。
えびす様といえば、右手に釣り竿を持って左の小脇に鯛を抱え、ふくよかなお顔に福耳で優しい笑顔のお姿を思い浮かべます。古事記に、えびす様は「冲ノ御前島」で鯛釣りをされていて、初めて釣りをした方と記されています。
ちなみに、こちらの島も美保神社の境内になっています。全国にえびす様が祀られている神社は、約3,385社あり美保神社はその総本宮です。北は、北海道から南は沖縄まで、特に水産、海運に携わる人々から深く信仰されてきました。
ご利益は、事代主神のえびす様が、商売繫盛、大漁満足、海上安全、歌舞音曲(音楽)、学業で、三穂津姫命が五穀豊穣、安産、夫婦和合、子孫繁栄、歌舞音曲(音楽)と、それぞれ多岐にわたります。
美保神社の見どころ
本殿
本殿は、社殿の最も奥にあります。美保造(みほづくり)または、比翼大社造といわれる、全国でも珍しい建築様式です。神社の本殿の大社造という形式を左右に並べて、その二殿の間をつないでいます。「左殿」に三穂津姫命をお祀りし、「右殿」にはえびす様こと事代主神をお祀りしています。
1800年(寛政12年)に美保関大火が起こり、本殿は焼失してしまいますが、1813年(文化10年)、松江藩主の寄進により、再建されました。以来、築200年以上の貴重な建築物として、国の重要文化財に指定されています。
拝殿
1928年(昭和3年)に拝殿が建てられました。建築学者の伊東忠太氏の設計、監督によるもので、他にも明治神宮や築地本願寺なども手掛けています。檜造りの建物で、杮葺き(こけらぶき)と呼ばれる杉板を敷き詰めた屋根の造りになっています。
えびす様は海の神様で知られるため、船を入れておく蔵である船庫を模した造りになっており、梁(はり)がむき出しになっていて、壁や天井がない、独特な構造になっています。また、えびす様は歌舞音曲の神様でもあります。山に囲まれた美保神社は、境内全体が良質な音響効果があり、鳴り物(楽器)が好きなえびす様のために、ここ拝殿では音楽の奉納が繁栄に行われています。
宝物
美保神社は美保関にあり、北海道から下関を経由して大阪へ行く北前船や、その他多くの交易船が行き交う船の要衝でした。このため船乗りたちから、えびす様は海の危険から守ってくれると、大変厚く信仰されてきました。
海上の安全をはじめ諸願成就を願い、音楽が好きなえびす様へ今までに全国からたくさんの楽器が献納されています。そのうち846点は、国の重要有形民俗文化財に指定されるなど、美保神社が所蔵する宝物の数々は貴重なものばかりです。海を渡り日本に伝わった最古のオルゴールや、アコーディオンをはじめ、島原の乱で戦陣に用いた陣太鼓などが、毎月7日に行われる「七日えびす祭」に、境内にある「収蔵庫」にて公開されています。
青石畳通り
美保神社の前に、「緑色凝灰石」と呼ばれる天然石で敷き詰められた、青く美しい石畳があります。江戸時代、この地は北前船の航路になっていて繁盛し、多くの人が往来していました。物資の移動が便利になるよう、石畳を敷き詰めたと考えられています。美保神社の前から佛谷寺方向の250メートルの通り沿いには、歴史を感じさせる老舗の旅館や醤油藏などが並ぶ趣のある通りです。風情のあるレトロな通りで散策を楽しんでみてはいかがでしょう。
おかげの井戸
鳥居の近くに、登録有形文化財になっている「おかげの井戸」があります。昔、雨が降らない日が何日も続き、毎日使っていた井戸が干上がってしまい、村人たちは大層困りはてていました。そこで、雨を降らそうと美保神社の宮司さんが雨ごいを始めます。すると、神のお告げが降りてきました。言われた場所を掘ってみると、たっぷりの水が湧き出てきたそうです。水の恵みを喜んだ村人たちに、「おかげの井戸」と名付けられました。
北前船が来ていた時代でもあり、地元以外の多くの人にも、水の恵みを与えていたようです。八角形の独特な形をした井戸は、由来も名前も縁起がいいのでおすすめです。
亀の石像
知る人ぞ知る、隠れたパワースポットといわれています。本殿参拝後に後ろを回ってみましょう。溝の中に、亀の石像がひっそりと置いてあります。この石像の前から出る湧き水は、裏山から湧き出ていて枯れたことがなく、そのため商売が枯れない、恋が枯れないなど縁起が良いスポットとされています。
御霊石(おたまいし)
漁師がかつて、海で発見したという丸い石です。元々は2つあったそうですが、夢のお告げにより1つは海へと還したそうです。撫でると安産のご利益があり、丈夫な赤ちゃんが生まれるといわれています。皆さん、しっかり撫でていかれるからか、表面がツルツルになっていますよ。
美保神社の特にパワーを授かるには
出雲大社との両参り
島根半島両端にある出雲大社と美保神社は、出雲の東西の国の守り神として、はるか昔より人々に敬われてきました。ご祭神の大国主大神であるだいこく様と、事代主神であるえびす様は、出雲神話での国譲りを成し遂げた親子神です。
父大国主大神から、国の将来の決断を託された息子事代主神は、えびす様として総本宮の美保神社に祀られ、全国からも参拝客が訪れます。大国主大神を祀る出雲大社と両方お参りすることで、より一層の良縁に恵まれるとされています。愛する人や家族、仕事や未来の夢などさまざまな縁が幸せに結ばれ、めでたく両想いになれるように、「えびすだいこく両参り」をしてみませんか。
美保神社の授与品
福種銭(ふくたねせん)
祈祷された10円玉が包の中に入れられています。この10円はお守りで持ち歩くのではなく、金銭招福のために種選として使うものです。えびす様の効果もあり、廻りまわって大きな利益になって戻ってくるかもしれませんね。
絵馬
えびす様である「事代主神」と五穀豊穣「三穂津姫命」をお祀りしていることから、絵馬には、鯛が稲穂をくわえた絵柄になっています。絵馬は、境内に吊り下げられていて、えびす様が鯛を釣っているイメージです。また、小さな釣り竿にぶら下がった絵馬もあります。家に持ち帰り、ぶら下がった状態のまま飾れば、縁起物として大きな効果があるそうです。
まとめ
古墳時代からの起源があるとされ、歴史ある美保神社ですが、由緒書の看板などが設置されていません。先入観なしに、その時々の空気感と佇まいを感じ取っていただきたい、との思いが込められているそうです。語らずとも神聖さが感じられる、厳かな神域に身を浸してみてはいかがでしょうか。
ライターネーム/サクヤ凛
基本情報
所在地:〒690-1501 島根県松江市美保関町美保関608
TEL:0852-73-0506
公式HP:http://mihojinja.or.jp/
交通アクセス:
・JR松江駅から一畑バス(美保関ターミナル行き)で40分、終点で美保関コミュニティバス美保関線乗り換え約30分、美保神社入口下車
・松江だんだん道路 川津ICより車で約40分
駐車場:地区駐車場利用(無料2カ所)
見学:所要時間 40分
(最新の情報は公式HPでご確認ください。)